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「見るからに不味そうじゃないか。そんなもの食べたら腹を壊す」
明らかに王子が舌うちしたように思えて俺は、目を細める。
「まさか、俺に毒を盛ろうとでも思ったのか?」
「だから俺は供物に毒を入れろと言ったんだ」
「……そんな事をして見ろ。お前が大切だと思っている国の平穏が崩れる事になるぞ?」
「知っている」
王子はため息を漏らして肩をすくめた。
「安心しろ、供物には毒なんか入ってない。そもそも……こいつが含んだ毒で毒竜のお前を殺せるかどうかもわからないしな。全部俺がたくらんだ事だ。国は悪くないんだ…気を悪くしたか?」
少し困ったように俺をうかがう王子。
俺は笑いながら首を回す。
「いいや、お前……変な奴だな」
変わった王子だ。多くの人間が恐れる俺とこれだけ雑談を交わした人間は珍しいだろう。俺が、怖くないわけではないようだ。それでもその恐怖を顔に出さず、友人の死を目の前にして感情を押し殺しているのが俺にはわかる。
この王子、必死に自分に対して嘘をついている。
嘘がつけない俺には出来ない芸当だ。
「王子殿、」
俺は少しわざとらしく改まって尋ねた。かつて、俺をノーデライと呼んだ魔法使いの作法を習う。
「良ければ名前を教えてくれないかな?」
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