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少々俺はデカくなりすぎた。昔は人間一人くらいがこの腹に丁度良かったのはずなのだが、今は人間なんて一飲みだ。歯で砕いて鉄錆びに似た、痺れるような血の味を味わうにも一瞬。
人間一人では足りない。
そのように脅したところ人間以外の供物も山のように積まれて差し出されるようになった。
それらを年に4回、平らげて寝て過ごした俺はあっという間に大きくなってしまった。
お前、美味そうじゃないな。
俺を『眠らせる』為に差し出された春の供物に向けて、俺はそのようにぼやいていた。
そしてとたん、目の前にした少女を喰らう意欲が削がれた。他の供物……豚や牛、酒、果実や穀物から作ったまんじゅうやらを平らげた後で俺はすっかり腹を満たしてしまったのだ。やせ細った少女なんて腹の足しになりそうにない。美酒を平らげた後じゃ、鉄錆びの血の甘さはいらない。
「あのぅ……」
すでに眼をまどろませていた俺に、少女は恐る恐る声を上げた。
「なんだ?俺の眠りを妨げるのか?」
少女はあわてて首を振りながらも小さく、尋ねる。
「私は……どうすれば?」
俺は大きな目を瞬いてから答える。
「お前は美味そうじゃない。だから要らない」
「ですが私は、今期の貴方様の……供物なので」
消え入りそうな声で少女は言った。この子は俺の供物、ようするに……エサだ。
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