嘘が吐けない竜  no de lie DRAGON

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 俺の腹に収まる事で俺を満足させ、これから来る長い夏の間俺が幸せに惰眠を貪る為に国から差し出された生贄。彼女はそうやって自分を差し出す事によって俺を眠らせる。そうやって、国に平穏を齎す。  そうやって彼女は徳を積む。来世を平穏に生きる為に。 「ああ、そうか」  俺はめんどくさいと思いながら横たえていた首を持ち上げた。  だらけていた四肢を伸ばし、森の木々をも超える巨体を置きあがらせる。その巨大な醜いトカゲの怪物の迫力に目を奪われ、立ちつくす少女を手に掴む。漏れ聞こえた悲鳴を無視し、俺は背中に畳んでいた羽を広げて羽ばたいた。とたん風が木々をなぎ倒し、人間が作った石の祭壇が吹き飛ばされる。  俺は、供物が『不味そうだ』という文句を言う為に数百年ぶりに町に出る事にした。  約束が違う……俺は、年に4度美味い供物を差し出すように貴様らに言ったはずだ……と。 *** *** ***  久しぶりに体を動かすのはいいかもしれない。  すっかり大きくなった体で訪れた街は、見ない間にずいぶん立派になっていた。大きな城を尻尾の一降りで崩すのは面白かったな。逃げ惑う人達を追い詰めて、毒のある吐息を吹きかけてもがき苦しむ様子は動きが奇妙で見ていて飽きない。     
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