◆青葉さんの紫陽花の色◆

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交差点で信号を待つサラリーマン。 SNSに夢中な学生。 買い物袋をパンパンに膨らませた主婦。 レインコートを着たパグを連れたお年寄り。 雨を(はじ)く傘は色とりどりで。 お天気キャスターはこの時期になるとよく、“傘の花が咲く”と表現する。 そのとおりだと思った。 歩くたびに揺れる傘は、まるで風に揺られる一輪の花のようだ。 茎は一つの花に一つ。 みんなが、自分の花を支えている。 だからだろうか、その中で一人だけ蕾のままな彼女を見つけるのは簡単だった。 「青葉さん……?」 道路を挟んだ向かいには、ずぶ濡れの彼女が立っていた。 信号が青に変わると、俺は走り出していた。 「青葉さん、どうしたの!?」 「卯野くん……?」 青葉さんは、どこか怯えた様子で俺を見つめ返した。 「傘、壊れたの?」 「……変だよね。傘もささないなんて……」 ぎこちなく微笑むと、彼女は自分のビニール傘を持ち上げた。 けれど、傘を開きかけたかと思うと、すぐに閉じる。 雨に濡れた青葉さんの手は、尋常じゃないほど震えていた。 身体が冷えて震えているのとは違う気がした。 彼女は頑なに傘をささない。 「ごめんなさい……!」 まるで隠すように傘を抱きしめると、青葉さんは傘の群れの奥へと消えてしまった。
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