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お葬式を済ませても、私の中で彼が死んだという事実は受け入れられないまま、まだどこかであの遺体は別の誰かなんじゃないかと思っている自分がいた 。 だけど、当たり前のように時は過ぎ、一ヶ月、二ヶ月と経っても彼はもちろん私に会いに来てはくれない。 結婚式をするはずだった日が、一ヶ月後に迫った頃、私はとうとう彼に会いに行く決心をした。 もちろん、それはもう人ではない彼に会う、という意味だ。 バスルームで手首を切り自殺を図った私は、結果的に彼の元へはいけなかった。 心配して様子を見に来た母に見つかってしまったのだ。 親不孝な私を両親は泣きながら抱きしめてくれたけど、私はその頃どこかおかしかったんだと思う。 死なせてくれなかった不満をぶつけたまま、実家に連れ戻そうとする両親を振り切って、私は彼と住むはずだったあの部屋へと戻った。
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