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ハッとしてもう一度彼の方を振り返ると、少しずつ彼の姿が薄くなっていくのが見えた。 「リョウ!!」 手を伸ばしてももう彼には届かない。 私に優しく笑いかける彼の顔はしっかりと見えているのに、触れることは許されなかった。 きっと、さっきの私の言葉が彼を安心させて、引き止めていたこの場所からあるべき場所へとようやく旅立てるのだろう。 「リョウ!!」 泣き叫ぶ私の体を、柔らかな光が優しく包み込む。 「さら、今までありがとう。僕の分まで生きて。ずっと見守ってるから」 姿の見えない彼の声が私のすぐ耳元で囁くようにそう呟く。 「私も!私もありがとう!ずっと引き止めてごめんなさい!私、頑張るから!リョウの分まで生きて!幸せになるから!だから、もう心配しなくても大丈夫!ありがとう!リョウ!」 精一杯声を張り上げて、もうどこにいるかもわからない彼に向かってそう叫んだ。 キラキラと月の光に紛れるかのようにその光はしばらく私の周りを包んでいたけれど、やがてふっと一気に消えてなくなった。
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