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しばらくその場で動けずにいた私は、1度ゆっくりと息を吐き出してからそっと立ち上がる。
ベランダに出てみると、さっきまでの雨が嘘のようにお月様が顔を出していた。
半年前、リョウは事故で亡くなった。
さっきみたいな霧雨の降る静かな夜だった。
結婚の約束をしていた私たちは、その日も会う約束をしていて、いつまでも現れない彼に不安を抱いた頃、その悪夢のような知らせは届いた。
警察……事故で……即死?
何の話をしているのか分からなくて、取り乱しながらも、必死にメモを取り彼の元へと向かった。
病院でもない警察の遺体安置所は、もう彼が生きていないことを示すように、ひんやりと湿った空気の中にあった。
彼だと認識するのが難しいほど、遺体の損傷は激しく、彼との最期の対面なのに、彼の顔をちゃんと見ることができなかったことで、私の中のなにかが壊れていくのを感じた。
彼の両親が泣き崩れる姿を目の当たりにしながら、私はどこかそれを遠くで見ているような感覚で無表情のままピクリとも動かなかったらしい。
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