17人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「な、だから、その、馬鹿!阿呆!」
「……、やっと出た言葉がそれか」
「あったりまえだろう!何考えてんだ馬鹿兄貴!」
「俺だっていろいろ悩んださ。何年も考えた結果がこれだ」
「開き直るなよ!」
もう知らない、と部屋を出ようとした。が、それを長男が許すはずがなく叶わずに終わった。
「わっ」
暖かな腕に囚われる。振り向きもせず、その腕に顔を埋めた。
「そんな俺でも好きなんだろ?」
「……無駄にいい声すんな、馬鹿!」
今度こそ香夜の手を振り払って部屋を出た。
「夕兄―? なんかあった?」
夕希の叫び声を聞きつけた奈津が心配そうに近寄ってくる。奈津が左側にくっつくと、右側にも温かさを感じた。
「夕兄ちゃん、顔真っ赤だ」
「葵……奈津も。心配してくれてありがとな。なんでもないよ」
双子を腕にくっつけたまま、居間に向かう。昼食をすっぽかしたためか、夕希の腹の虫が今更飯を食わせろと訴えて来ていた。
「そっか。大丈夫だって葵」
「ならいいけど」
「ただ……」
「ただ?」
葵の髪を撫でながら夕希はつぶやく。
「悪い狼には気をつけろよ」
「狼?夕兄、狼なんて見たの?」
「奈津、動物園に行かないと狼いないって。もう日本のはみんな絶滅したから」
「じゃあ、どこに?」
今度は奈津の頭を撫でながら言った。
最初のコメントを投稿しよう!