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神社は、初めて行くところであったが思いのほか簡単に見つかった。まったく道に迷わなかったことで葵は、そこに自分が導かれたような気すらした。
一応、事前に正しい参拝の仕方を調べ、かつてないくらい丁寧に参拝した。
――どうか、私に赤ちゃんができますように。赤ちゃんを与えてください。
葵は、その後、子宝に恵まれるというお守りを買った。
その神社の効果があったかどうかはわからないが、葵は、その後妊娠した。
高齢出産となったが、安産であったし、生まれた息子は、五体満足で万々歳だった。
しかし、育児は、葵の想像した以上に大変なものだった。
どういうわけか、母乳は、ほとんど出ず、いや、乳房の中で作られてはいるようなのだが、詰まって出てこないようなのだ。毎日、胸は激痛で発熱する中、必死で胸をマッサージし、泣き叫ぶ息子をなだめ市販のミルクを作り与えるが息子は、それを飲んでくれない。少し飲んでもすぐ吐き出す。
あれほど欲しいと思った赤ちゃんであったが今の葵の一番の願いは、この赤ん坊から解放され自由になることだ。
葵の母や姑も手伝いに来てくれているが、よけいにイライラさせられることもある。
こんなはずではなかった。
かわいい赤ちゃん。満たされた気持ち。キラキラとしたママとしての生活。
現実は、もうボロボロだった。鏡で自分を見る度、葵は一気に五歳くらい老けたように思う。
お婆ちゃんが赤ちゃんを抱いているようだ。
疲れた。
ゆっくりお風呂に入りたい。寝たい。自由になりたい。
でも、それは許されない。子宝を与えられたのだから、責任を持って育てなくてはならない。
葵は、ぼんやりとした頭でもう死んじゃいたいなと思った。
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