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…時は遡り、 川野の家から帰った内川のその後… 「…このシャツ、いー匂いするね?」 すんすん、とワイシャツに鼻を近づけて匂いを嗅ぐのは、夏帆。 飲み会後に俺の家にやってきて、風呂に入り、飲み会での愚痴を話し、セックスをし、心地よい眠りから覚めた日曜日の朝。 俺より4つ年下の21歳。大学中退でアルバイトで生活している。まー、ほぼ俺んちに入り浸りで半同棲みたいな。 溜まった洗濯物を洗おうと、やけに綺麗なワイシャツが目に付いたらしい。 …普段進んで洗濯なんかしないくせに。 …ぎく。として一瞬のうちに頭をフル回転させた。 「そうそう、泊まった同僚の彼女が洗濯してくれてさ。柔軟剤の匂いかも」 「なんでこーちゃんのワイシャツ洗濯すんの」 「…同僚が吐いちゃってさー。もう散々。どれ?」 この話は終わり。とばかりに強引に会話を終わらせて、いい匂いのワイシャツを嗅ぐ。 すんすん。 「…んー、確かにいい匂いかも。うちのとは違うんかね」 …うん、川野さんの匂いかも。どんな匂いって言われても、ぽい匂いとしか言えないが。 それにしても、こうして川野さんの痕跡を見つけると思い出してしょうがない。
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