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「昔から多くの歌人が、自分の心の声を歌に託したのですよ。
あなたもそろそろ自分で歌をつくってみるのもいいかもしれませんね」
「いぃえ、先生。
私は先生が歌を詠んでくれて、その内容を考えてみて、さっぱりわからなくって…
結局最後は先生に解説してもらって、ほほぉ~っ!てなるのが好きなんですよ。
だから歌作りは遠慮しときます」
「……そうですか。
まぁ、モノの好みも良し悪しも人それぞれ…
それもいいでしょう」
「じゃあ先生、妻からの用事で隣町まで行かなきゃいけないのでそろそろお暇します。今日もありがとうございましたっ」
弟子がニコニコと嬉しそうに家から去っていった。
先程まで降っていた雨はやんでおり、午後三時の空には晴れ間が垣間見えた。
さて――
次に弟子が来た時にはどんな歌を用意しておこうか…
見送りを終えて振り返ると、庭の紫陽花の葉から雨露が滴り落ちる様子が目に映る。
その情景を見ながら、浮かんでは消える言葉達をこねくり回した。
紫陽花の
葉から滴る
雨しずく
行き場なくして
すくう手も無し
こんな歌を詠んだ日には、あの弟子はまた湿度の高そうな歌だと言うだろうか…
そう考えれば考えるほど、屈託のない笑みが思い浮かんだ。
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