思い出の上書き

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思い出の上書き

朝起きると、2人分のコーヒーを淹れるのが日課だった。 あの人が亡くなった後も、その日課は欠かさないようにしていたのだけど、 コーヒーパックが無くなって来たので、 近所にあるいつものスーパーに買いに行くことにした。 スーパーにて、前回買い物に来たときのことを思い出す。 あの日。 あの人が「お昼は中華が食べたい」と言い出したので、 私は特に食べたいとは思っていなかったけどつきあう事にした。 食べた後、夕飯の買い物をするためにいつものスーパーの駐車場に着くと あの人は突然気分が悪くなったらしくて 「車の中で少し休んでから行くから、先に買い物をしていて」と言った。 私はいつものとおりにあの人が好きなものとか、 身体に良いと聞いて凝っていたパパイヤ、もずく、牛乳などの食材を選ぶ。 「ほうれん草もいいな、お浸しでもつくろうかな」と思って買い物カゴに入れる。 だけどレジに並んでお金を払い終わっても、 あの人が店内に来ることは無かった。 車に戻ると、助手席を倒してとても具合が悪そうに唸っていた。 あの日。 駅前の中華屋さんで食べたランチが、 ふたりで向かい合って一緒に食べた、最後のごはんになった。 ひとりになってからはじめて、いつものスーパーに買い物に来て、 いつものコーヒーパックをカゴに入れた時、 もうあの人と一緒に買い物をすることは2度と無いんだと痛感してしまった。 あふれてくる涙を我慢するのは難しかった。 だけど…。 これからも、 私は ここで生きていく。 日常の身の回りにある全てのものに、あの人と過ごした思い出があるけど、 生きていくために私は、辛くてもそれを上書きしていくんだ。
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