柏手さんは人気者

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 公園に辿り着いた僕たちは、何を話す訳でもなく自然と其処へ足を踏み入れ、雑草の生い茂った人気のない公園のベンチに腰を掛けた。  古い作り物独特の(きし)みを周囲に響かせつつ、僕らは互いに目を合わすことも無く虚空を見つめて黙りこくっていた。しかし、それを破ったのはここへ案内した柏手さん本人。 「ここ、思い出深い場所なんだ。昔ここの近くに仲のいい友達が住んでて、よく二人で遊んでたんだよ」  そう放った彼女に、僕は愛想笑いを向ける。  正直、今迄何の会話も交わしたことの無い顔見知り程度の人物に昔を語られても、返す言葉を探す気にもなれない。もしかしたら僕は性格が悪いのかもしれない。だが、僕は只の何処にでもいる人間であり、物語に登場する完璧超人な主人公ではないから仕方がないと思う。  鮮やかだった空も紫色に染まり、街灯の無いこの公園は昼間より一層薄気味悪く僕らを包み込む。そんな中放った彼女の言葉は空中へと霧散していき、何も無かったかのように先程までと同じ冷たい空気が流れる。 「私、教室で浮いてるよね」  唐突に放たれたまさかの言葉に、僕の背筋が凍る。別に彼女が何かしてくるわけじゃないのは分かっているし、彼女を助けた〝鳴海晶(なるみしょう)〟の原因を作ったのも柏手さんが直接関係していないという事も理解している。だが、何と言えばいいのか……彼女には普通には表現し難い独特の空気感があるせいで僕の恐怖心を掻き立てるのだ。それは将に――――猛獣に狙われる小動物のような。 「聞いてる?」 「ッ――!」  固まった僕の肩に置かれた柏手さんの右手。その人とは思えない体温の冷たさに驚愕し、更にはその美しい顔を息が掛かるくらい近くに寄せてきたことに心臓が止まりそうになる。  何故僕がこんな目に合わなければいけないのか。やはり、普段見て見ぬフリをしていた罰なのか。  そんな過去の自身の行動を悔やみつつ、僕は震える声で返答を返した。 「あ、うん。聞いてる。僕にはその……あ、あまりよくわかんない、かな」 「そっか。それもそうだよね。君も私と同じ人種みたいなものだし」 「――え?」  彼女の言葉に目を見開く。
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