柏手さんは人気者

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 彼女の言葉に目を見開く。  僕が柏手さんと同じ? ハハハッ、笑わせないで欲しい。僕は至って普通の人間だし、学校に友達だって……数人いる事にはいる。決して浮かないように平静を保ち、周りに馴染むように生きてきたんだ。言葉では言い表せない血の滲む努力。そうやって今の地位を獲得した。いい意味でも悪い意味でも浮かない、何処にでもいる謂わば〝モブ〟に徹するように生きてきたんだ。それなのに――。  僕は思わず彼女を睨みつける様に隣へ振り向いた。その先には――鼻先が接触してしまいそうなくらい迫った柏手さんの顔。 「うわっ!?」  驚いた僕は大袈裟に体勢を後ろへ仰け反り、無理やり彼女と距離を取る。あまりの衝撃に冷や汗が流れ落ちた。 「フフフッ、いい反応だよ。皆、そうやって私を怖がるんだ。別にどこにでもいる普通の女の子だというのに。その驚きようを見ると、いっつも思うんだよねー。まるで私が――」  それに続いた言葉に目を見開く。申し訳なさはあるが、的を得た表現だと思ったから。  確かに、今の僕の反応はそれを目撃した子供のようであるし、その視線を向けられた彼女がこうして僕に冷たい瞳を向ける意味も理解できた。  だけど、自分をそんなものに例えるなんて――彼女は中二病でも患っているのだろうか。  不意に浮かんでしまった阿保らしい発想を頭を振って掻き消し、彼女と距離を取る様にして姿勢を正した。  咳払い一つ。 「ば、馬鹿馬鹿しいな。何だよ――〝怪物〟って」  そう溜息交じりに返答を返した僕は、冷静さを演出するようにベンチに背中を預けた。心の中で背中を見せないヒットマンと自分を照らし合わせ、さも彼を自身へ憑依(ひょうい)させたように。 「フフフッ、〝事実〟を言っただけじゃない。何ら不思議な事は無いよ。私は怪物であり、君はその同類。全く同じでは無く、似て非なる何か……」  柏手さんはそう独白するように呟き、座った状態で雌豹のように僕へと迫ってくる。しかし、その姿に顔を出す感情は欲情や羞恥などでは無く――只々恐怖のみ。  彼女の瞳には有無を言わさぬ何かがあり、その奥に潜むねっとりと深い〝闇〟が僕をその場に縛り付ける。 「私はずっと君を見ていた。君も私をずっと見ていた。これってすごい事だと思わない? 運命だと思わない? こうしてさ、二人で見つめ合ってって……想像してさ」
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