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そのくらいではへこたれぬ平助はそれならばと、集められて持ってきたごみをそれぞれに分別することにする。
森の中だけあって、ごみのほとんどが枯れ枝と落ち葉だったので、まずはそれを分ける。
ごみ置き場に落ち葉の山を作ると、枯れ枝は持ちやすい大きさに切り、これまた持ち運びしやすい大きさにまとめて、落ち葉山の隣に置いた。
いつも通り引き取りに来た、村の者達が驚く。
「あれまあ、きれいにまとめられて。こうなるともうごみとは云えねぇな」
「枯れ枝の長さはこれでいいかい? 使いやすい長さに切っておくよ」
「いや、長さもひとまとまりも、丁度ええわ。こりゃ助かるわ」
そりゃ良かったと人懐っこい笑顔を見せる平助に、村の者達は好感を持った。
※ ※ ※ ※ ※
何日か繰り返すと、平助と村の者達は世間話をするようになっていた。
「あんたみたいな侍もいるんだねぇ。前のやつなんか威張っているだけで、なんにもしなかったからね。侍なんて穀潰しだと思っていたよ」
「俺らを当たり前にされても困るけどね。まあ侍にも色々なのがいるんだよ。百姓だってそうだろ」
「ちがいない」
笑いながら話に花が咲く。おかげで津入江がどんな暮らしをしていたか、弐ノ宮、祢宜達、そして樹宮司の評判などを知ることが出来た。
「ないしょの話だが、まああんまり評判はよくねぇな。威張ってばかりでよ。それに木こりをやっている奴に聞いたんだけど、木ってのは適当に間引きしてやらねえと、共倒れになっちまうんだと。だけど神社の中なのと、木を祀っているから伐れないんだとさ」
「それでこんな森みたいになっているのか」
「らしいぜ。さすがに本殿辺りとか参道は残してあるけど、それ以外には手をつけていないから、こんなうっそうとした所になってるんだよ。こんな暗いところに住んでいたら、そりゃ暗いたちにもなるわな」
「だから飽きもせず、嫌がらせするんだろうな」
「高見様だっけ、歳はいくつだい」
十六と答えると、たまたま息子と同い年だったようで、同情してくれた。
「若いのに苦労してんなぁ。よしわかった、これも何かの縁だ、何かあったらいつでも頼ってきな。息子と思って助けてやらぁ」
「こっちも息子と思って助けてやらぁ」
「おめえ、いくつだっけ」
「にじゅうはちだ」
「たわけ、十二の時に子供がつくれるかよ」
そりゃそうだと平助も大笑いした。
※ ※ ※ ※ ※
そんな毎日を過ごしてひと月ほどすると、平助はおかしな事に気がついた。巫女を一度も見たことがないのだ。
神社に巫女が居るのは当然である。神憑依は女にしかできない。どんなに神職として有能でも、男には神憑依はできない。それゆえどこの神社でも巫女は必ず居るはずなのだ。しかし、ここに来てから男以外を見たことがない。
その事を村人達にさりげなく訊いてみたら、そういや見たことないなと言われた。
不思議に思っていたが、ある日ごみの中に子供の──それも女物の着物の切れ端をみつけた。
「変だな、巫女を見たことないのに女物の服が捨てられているなんて」
切れ端の質から察するにどうやら百姓娘の物らしい。
「女物の着物があるのに、巫女を見たことがない。どういうことかな」
何か隠し事があると平助は直感した。
──探ってみようか。もしかしたらそれで手柄になって、戻れるかもしれない。姫様が嫁ぐまで一緒にいられるかもしれない──
そう思った平助は、その夜から神社を夜な夜な探るようになった。
※ ※ ※ ※ ※
毎晩飽きもせず祢宜達は夜中まで見張っているがひと晩中まではやらない。平助が寝入ったと判断したら帰っていく。
それを知った平助は小屋を修理するときに作っておいた抜け穴を通して外にでると、闇にまぎれて社殿に忍び込む。
神殿も祭殿も変わったところは無かったが、樹宮司の住み処と奥殿だけは、警戒が厳しくて入れなかった。
──ということは、そこに何かあるんだろうな──
そうと分かっていてもどうしたものか分からず、そのまま何日も経っていったのだった。
※ ※ ※ ※ ※
その日も平助は相変わらず村人と談笑していたが、そこへ若い祢宜が割り込んできた。
「いつも楽しそうだな、何を話しているのだ」
とがめられたと思った村人は、そそくさと帰っていく。それを見送りながら禰宜ににこやかに話しかける。
「そんなに険しい顔で話しかけては恐がっちまうよ。もうちょっとにこやかにしなよ」
「うるさい、いちいち笑っていられるか。そんなことして何になる」
「そりゃみんなが楽しくなるだろ。何やるにしても楽しんでやった方がいいじゃないか」
「ふん、そんなことを樹様の前でやったら叱られるわ」
「宮司様は厳しいのかい」
「そんなことお前には関係ない。その樹様が御呼びだ。ついてこい」
──なんだろう、忍び込んだのがばれたかな──
それならそれでとぼけようと決めて、祢宜の後について神殿に向かう。
※ ※ ※ ※ ※
社殿の板の間で待っていると、樹宮司が入ってくる。
相変わらず見下した目で見ている。上座に着くと鼻先で見くだすように声をかける。
「高見とやら、ここに来てどのくらいにるかぇ」
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