おじさんは地球人?

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 ウェイトレスがぴょんぴょんと跳ね、はしゃぐのを見て、苦笑する。見かけの割に言動が幼く、可愛らしい。 「地球は、面倒なことが多いからね、本当はあんな所に帰りたくないよ」 「地球には、面倒なことが多いの?」  その質問を聞いて、失笑してしまった。面倒なことが多いか? 愚問だ。 「たくさんあるさ。仕事を押し付けてくる上司とか、自分のミスを私のせいにする先輩とか、電話もメールも返してくれない担当者とか、働いてるとたくさんあるよ。出張だって、本当は上司が行くはずだったんだけど、飛行機乗るのを恐がる人だからね、自分が嫌だから私に押し付けたんだ。会社もそうだけど、家も大変だ。妻が家事を分担してくれないし、犬の散歩にも行かないし、出張に行くのを一々浮気してるんじゃないかと疑ってくる。あとは、これから子どもの受験もあるしなぁ」  言葉にしながら、気分と身体が沈んでいく。折角、月まで来ているというのに、現実にしがみ付かれて重力がはたらき、地面に落とされていくような錯覚を覚える。  月は、重力が六分の一だからか、のんびりとしている。本気でここに残りたい、と強く思い始めていた。仕事を辞め、田舎暮らしをしたい、と思うのに似ているのかもしれない。 「それは、どの辺で起こってるんですか?」  彼女が、窓の外を指差した。     
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