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ガラス張りのビルの一階中央にある受付カウンター。
そこに居るのは二人の受付嬢。
見ため高校生に見える背の低い黒髪が私。
隣に座るのはギャルメークの伊藤先輩。
彼女はカウンターに肘をついて眠そうにあくびした。
後一時間もすれば、17時になり就業時間が終わるというのにもう少し頑張ってほしいいんだけど、そう思いつつも口にしないの人間関係を円滑に進めるためだ
。
キレイに磨かれた窓ガラスから、差し込む夕日の眩しさに目を細めながら、カウンターに向かって歩いてくる女性へと視線を移動させた。
赤茶に染めた長い髪を縦巻きカールした派手な化粧をした美人だ。
彼女の着てるブルーのスーツはきっと某有名ブランドだろう。
短いタイトスカートから覗くのは、真っ直ぐに伸びた綺麗な美脚。
神様って二物を与えるんだなぁ、そう思いながら挨拶をした。
「いらっしゃいませ」と。
「受付はこちらでいいのかしら?」
「はい、どういったご要件でしょうか」
と、言えば女性は綺麗に微笑んでこう返す。
「裏予約をしたいのだけど」と。
それにチッと心の中で舌打ちする。
この時間帯は、裏予約の人しかいないの?
まったく、毎日毎日暇な人達だよ。まぁ、私に声をかけてくる時点で裏予約の人なのは決まってたけど。
「少々お待ちください」
顔に偽の笑顔を浮かべたまま、正規の受付表ではない黒いノートをカウンターの下から取り出した。
これが女性達の間で囁かれてるブラックノート。
私だけが管理し、私だけが使えるノートだ。
イライラした気持ちを隠しつつもノートを開き、隣の伊藤先輩をチラ見すれば、気怠そうに頬杖をついたままぼんやり正面を見ていた。
だから、まだ就業時間中ですってば、働きましょうよ。
「いつのご予約をご希望ですか?」
「来月のキングの誕生日がいいのだけど」
彼女の言葉を聞いてブラックノートをペラペラめくれば、その日は既に予約で埋まっていた。
まぁ、そうだよね。
みっしりと書き込まれた女性達の名前。
彼の誕生日は平日だし、夜しか空いてないのだから予約が一杯になるのは仕方ないよね、なんて独りごちて、顔を上げた。
「申し訳ありませんが、その日は空き時間がありません」
事務的にそう言った私に女性はしかめっ面になる。
「30分でも、1時間でもいいの。どうにかならないの?」
必死な顔でそんな事を言われても困るんだよね。
無理なものは無理なんだし。
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