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数点のドレスの中から選ばれたのは、シンデレラカラーのシルクサテンのノースリーブのAラインのワンピース。
裾でレースの二段切り替えになってるそれ。
ミディアム丈で背中の部分が編み上げのレースになっていて、腰を締めて見せる為の長いリボンが結べるタイプのもの。
白くてふわりとした短めのボレロと、上品で小振りの可愛い鞄とアンクルベルトの白いスマートなヒールも装着済み。
トータルコーディネートされたそれは、洗練された一級品ばかりだった。
姿を映す大きな鏡の前で、自分じゃない自分を眺めるのは、かなり恥ずかしい。
着る物が変わるだけで、ちょっと良い所のお嬢さんに見えるのだから不思議だ。
「うわぁ」
感嘆の声を上げたのは仕方ないと思う。
「とてもお似合いです」
「お嬢さんは元が良いから、飾りがいがありますね」
「これなら背の低さも目立ちませんね」
誰だ、さり気無くディスったの。
私の背後に立って口々に褒めてくれる店員を鏡越しに見ると、彼女達の側にいた三村さんと目があった。
「とてもお似合いですよ」
「ありがとうございます」
「当日はヘアメイクなどもこちらで段取りをしますので心構えをお願いします」
「えっ?」
そこまでしなくてもいいけどな。
ただの付き添いみたいたものだし、飾り立てて目立つ必要ないんだけど。
「市原さんは普段からもう少しご自分に気を使った方が良いと思いますよ」
樹と同じ事を言う三村さんに、ガクッと肩を落とした。
「私も絶対に着飾られた方がいいと思います」
ブティックの店長まで満面の笑みで三村さんの言葉を肯定する。
「元がいいのに勿体無いですよ」
「本当そうですよ」
口々に言う店員に、ここに味方は居ないのだと改めて思った。
「では、宝石店へと向かいましょうか。着替えをお願いします」
「あ、いや、流石にそこまでは」
宝石店なんて怖くて行けませんって。
もちろん、直ぐに私服に着替えるけど、このまま帰らせてもらいたい。
無言のまま私を見据えた三村さんの額には深いシワ。
なんとも言えない威圧感に、すごすごとフィッティングルームへと戻った私だった。
何を言っても、聞いてもらえないようだ。
あーどうしてこうなった?
本当、色々と巻き込まれていってる気がして仕方ない。
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