誕生日と初めてのドレス

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「ようこそおいでくださいました。斎賀様、三村様」 黒いフォーマルなスーツに白い手袋をした店員が手もみしながらやってくる。 多分、この人がここの店長だ。 オールバックに整えられた清潔感のある髪型をした紳士的な空気を漂わせる人だった。 「この服装に合いそうな貴金属を数点選んでもらえますか」 三村さんはポケットから取り出したスマホの画面を店長に見せた。 何か映ってるんだろうと覗き込むと、そこにはなんと先程のブティックで試着した私の姿。 い、いつの間に写真なんて撮ってたんだ、この人。 ギョッ大きく目を見開き三村さんを見上げれば、無表情のまま見下された。 口出しできない空気を醸し出すのは、止めていただきたい。 「うわっ! 瞳依ちゃん可愛い。快斗、その写真後で俺にも送ってよ」 キングまで何を言ってるんだ。 こんな写真拡散しないでよ、恥ずかしい。 「ええ、では後ほど」 後ほどじゃない! 私の肖像権はどこへ行った。 「やった。待受にしよ」 浮かれ気分でそう言ったキングに、 「待受なんかにしたら、もう口聞きませんから」 と釘を指す。 キングの待受になんてなった日には、あの恐ろしいお姉さん達から何をされるか分かったもんじゃないわ。 受付係ってだけで、攫われそうになったばっかりだってのに、もう面倒毎はごめんだ。 「俺のスマホなんて誰も見ないって」 「嫌です」 いつどこでバレるかわかんないでしょう。 「あ、あの三村様・・・」 言い合いしてたキングと私をチラッ視線を向けた後、困り顔で三村さんを見た店長。 「このドレスに合う物をお願いします」 さっきと同じ様な内容を繰り返した三村さんに、 「直ぐにご用意いたします。少し奥のお部屋でお待ちください。三村様達をご案内して」 と頭を下げた店長は、側に控えていた店員に指示を出した。 「はい、店長。こちらです」 目尻の上がった少し気の強そうな店員が店内奥の部屋へと案内を始めた。 あ、やっぱりあのおじさんは店長だったんだ。 勝手に心の中で呼んでたけど、合っててよかった。 「キング、市原さん、痴話喧嘩は程々にしていきますよ」 私達に一瞥をくれ三村さんは店員に案内されるままに歩き出す。 痴話喧嘩なんかしてないし、心の中で呟いて彼を追いかけた。 「瞳依ちゃん待って置いてかないで」 子供じゃないんだから騒がないでよ。 本当、この人は何処にいてもマイペースだよね。
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