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「あら、綺麗な娘が来たわね。キングの新しいデート相手かな?」
伊藤先輩の言葉に入り口を見れば、白いレースのトップスに黒いカーディガンを羽織ってスタイリッシュな薄い水色のストレートパンツを履きこなした樹がこちらに向かって歩いて来る所だった。
「違いますよ! あれが私の友達です」
声を大にして言った。
キングの遊び相手になんて間違えられちゃ堪らない。
「あら? そうなの。瞳依とは全然タイプが違うのね」
私を上から下まで見た後、そう言った伊藤先輩。
「煩いですよ」
どうせ、私と樹は異色コンビですよ。
綺麗系のお姉さんタイプの樹と、おっとり風な幼い系の私じゃ並んで歩いてると、よく姉妹に間違えられるし。
いいですよ、どうせ、こんなのいつもの事だもん。
「瞳依、何を拗ねた顔してるのよ」
カウンターの前までやってきた樹がそう言って長い黒髪をかきあげた。
「何でもないし。樹こそ早くない?」
時計の針は5時半まで後5分だ。
「5分前行動じゃない」
当たり前でしょう、と冷めた視線を向けられた。
まぁ、そう言われたらそうなんだけどさ。
「フフフ、気の強そうな友達ね」
伊藤先輩は私達のやり取りを見て楽しそうに笑う。
「どうも。瞳依の保護者兼親友の大谷樹です」
伊藤先輩に感情の分からない視線を向けて自己紹介した樹。
「あら、ご丁寧に。一応先輩やってる伊藤よ」
ギャルメイクの伊藤先輩が樹をマジマジと見ながらそう返す。
対象的な2人の見つめ合いに、なんとも言えない空気が漂った。
「樹、あっちのソファーで終わるまで待ってて」
この時間なら商談スペースのソファーはがら空きだし。
受付の前で待たれてると落ち着かないから移動してほしい。
「了解。じゃあまた後で」
頷いた樹は伊藤先輩に黙礼をしてから、私に向かってひらりと手を振って大人しくソファーの方へと歩いていった。
そんな樹に営業マン達が チラチラと興味深げに視線を向けているが、彼女は一向にそんなモノに構う気配はない。
威風堂々とした樹の後ろ姿に苦笑いを浮かべた。
「色々な意味で強そうな友達ね」
「まぁ、そうですね」
そこは即答できる。
「彼女、あなたと違った意味で男を翻弄しそうよね」
「私は翻弄なんてしませんよ」
人聞きの悪いな。
「知らぬは本人ばかりなりね」
意味不明の一言を言うと伊藤先輩は手鏡を取り出して、くるくる巻いてる巻髪を手入れし始めた。
この人もかなりの自由人だ。
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