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神という言葉が軽んじられるようになって幾年。最早、画面越しの一般人さえ神になる時代だ。
それだけ多く神というものがあって、彼らが果たして僕の人生を救ったか。神が果たして僕の運命を救ったか。
否。神は何も救わない。己の足で立てぬものほど救いを、救いをと縋りたがる。
僕は、神という存在をある程度肯定している。が、見えないというのはそれで事実なのである。見えないものを常に意識し信仰し続けるというのも、それほど殊勝な人間ではないのだ。
仕事を失って僕はようやく、いっちょ健気な信仰者にでもなるか、と山の上にあるらしい何とかという神社へと、足を運んだ。
やけに長い階段を昇りつめては、立札通りに手を洗い、ハンカチはポケットにない。仕方なくジーパンで濡れた手を拭いた。賽銭箱に、さもしい財布から取り出した五円玉を投げて、これまた立札通りの礼をする。僕は何も考えず、目を閉じて拝んでいた。しばらくその姿勢でいて、これはどのくらい拝み続ければいいのか、とふと思った瞬間、これは何か違う、と、これではあまりに杜撰だと、とっさに手を戻し、来た道を引き返しながら僕は色々と考えた。
神に救いを求めて、都合よく何かが舞い込んでくるわけはない。己で手を伸ばして、何かを掴もうとして初めて、舞い降りてくるものをその手でしがみつく機会に巡り合えるのかもしれないわけなのだ。そうすると、これまでの僕は何をしていたのだろう。こんな時だけ、上っ面の信仰の見返りを求めていたのか。
僕はそこでようやく、なんて心づもりで神社に来てしまったのだと恥を知った。いたたまれなくて、とても上を向いては帰路につけそうもなかった。早々に立ち去るべく足を速めていると、視界が開けて、ここまで登ってきた長い長い階段へ差し掛かる。神社は山の上にある。俯いていたとて、雲の踊る空が目に映った。
それは、なんというか、神々しい景色だった。金色の天に、白く波打つ雲の切れ間から、絹のような光の帯が何本も、何本も覗いていた。
神社。神の社。僕は初めて、そこに神を見た。ふいに目頭が熱くなって、唇がわななきだす。もう、胸を溢れる慟哭が堪えられなかった。
両手で顔を覆って、僕は、ただ嗚咽した。神の前で、嗚咽した。
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