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無数の灯りに照らされた庭はお酒も入り、日が落ちても明るく賑やかだった。本館の建物が近づくにつれチクチクと視線が刺さる。少しでも釣り合うように、付け入る隙を与えないようにとアデレードは背筋を伸ばす。
突如歓声が上がった。煌々と明るい一角に人だかりができている。ぼんやり眺めていると、
「ガゼボ、こっちからまわるとすぐだよ」
柔らかなテナーボイスが耳朶を打った。ウィルトールの指は建物の脇を指していた。
「送ろうか」
「大丈夫。……ほんとはね、さっきセイルに案内してもらったの」
「あいつが? ちゃんと案内できた?」
「森の中をちょっと歩いたら湖に出たわ。行けると思う」
胸元を飾る〝預かり物〟をなんとはなしに握りしめ、先ほど歩いた小径を思い返した。本館の裏手をしばらく歩けば分かれ道が見えてくる。拍子抜けするほど短いそこを進めばガゼボはすぐだ。
ウィルトールの笑みが深くなった。
「足元に気をつけて」
「転ばないったら」
軽く膨れっ面を作ってみせれば彼はわかってるよと片手を上げた。
「またあとで」
小さくなる背中を見送って、アデレードは再び人の集まる一角に目をやった。遠目には何に騒いでいるのかよくわからない。背後から女性が二人小走りに駆けていくと、つられるように足が向く。
「アデル……?」
すぐそばのテーブルから遠慮がちに声がかけられた。濃灰色の髪に金の飾りを挿した、細身で背の高い女性だった。見た目よりその特徴のある呼び方にアデレードの耳が反応した。そんなふうに呼ぶ人は過去一人しかいない。
「……もしかして、シェアラ?」
「やっぱり! ずっと探してたんだよ!」
駆け寄ってきた彼女はアデレードを上から下までまじまじと眺め、嬉しそうに微笑んだ。
「久しぶりだね。アデルすごく綺麗」
「シェアラは随分……背が伸びたのね」
頭ひとつ分高い位置にあるつぶらな瞳をぽかんと見上げる。記憶の中のシェアラはアデレードより小柄で、まるで少年のような少女だった。さっぱりとした気質はアデレードも気に入るところで、よく走り回って遊んだものだ。
「遺伝って残酷だよ。いい加減止まってくれないとほんと困る」
ほぼ踵のない靴裏を見せてシェアラは深い溜息をついた。その様はなんとも幼く、ついつい笑いを誘われる。
「この間ローディに会ったんだってね。ローディが、アデルも今日来るって。きっと会えるはずって言ってた」
「ローディアさん、もう来てるの?」
「あっちだよ。一緒に観にいく? ローディのメインイベント」
シェアラはにやと口の端を上げると件の人だかりを指差した。
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