1/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

疎らな街灯のせいで所々、色濃くなった闇から ちゃぽん と何かが跳ねる音がする 目の悪さと闇の深さのせいで そこにある川は朧気にしか認識出来ないけれど 濃い水の匂いが確かに、そこにある事を伝えてくる。 何が跳ねたのか気になって その正体を突き止めようと目を眇める 青鷺か 正確な事は解らない迄も、多分あれは鷺に分類される筈だと、ぼんやり思う 大きいなぁ ぱちり それまで横を向いていた鷺が 急に此方を向くものだから 何だか目が合った気がする これだけの距離で僅かにしか見えないのだ きっと気の所為だろうと思いつつ 鍵を回してドアノブを捻り がちゃん ぱたん 1人の人間が少し暗い様な廊下から 扉の中に入る様を 川に点在する石畳から眺める 「姐さん、そんなにじっと見てどうしたんです?」 そう問う彼女は 濡れて艶を増す長く美しい黒い髪と 綺麗な着物を水に泳がせ上目遣いで 此方を見遣る 「いやぁね、えらく熱心に見てくるもんだからさ何だろうかと思ってね」 そう答える彼女は 少し着崩した白い着物の袂を押さえつつ 解れた髪を直す 「あたしゃ、いつ、あの人間が気付くのか冷や冷やして気が気じゃありませんでしたわ」 「なぁに言ってんだい」 婀娜っぽい彼女は     
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!