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「誰だってそういうときはあるさ。気にするな」
彼の言葉に私はうん、と頷いた。
「藤くんは、土曜日は他にどこか出掛けたりしないの?」
「いつも、ここ。落ち着くんだ、ひとりでいると」
意外だ。彼は、休み時間はよく友だちと話しているし、体育が嫌いなタイプでもない。本を読んでいるときもあるけど、こんな休日を過ごす人には見えなかった。
「へぇ……。何だか意外。もっと、アクティブな人かと思ってたよ」
「そうでもないさ。普通だよ、俺は」
それは私も思ってた。
「早見さんは?休日は何してるの?」
休日か。改めて考えると、やっぱり平凡な気がする。友だちとショッピングとか、映画見たり。
「……友だちと遊ぶこともあるけど、土曜はやっぱり暇してるなぁ。小説読んでることが多いかも」
「ふーん。なら、ここに来なよ。あの本屋からも近いし。どう?」
いきなり言われると返答に困る。それは、藤くんと土曜日を過ごすということだ。どうしよう。何だか、汗が出てきた。おかしい。何を意識しているんだろうか。
彼は、ただのクラスメイト。隣の席の子。それだけのはずなのに。しばらく、私が答えないでいると、彼は、申し訳なさそうな顔をした。
「いや、無理には誘ってないよ。早見さんが、良ければってだけで。ごめん、忘れていいよ」
そうじゃない。嫌なわけじゃない。ただ、何だか恥ずかしく思っただけ。男の子と二人きりで過ごすなんてこと、したことなかったから。
「ううん、いいよ!いつもは来れないかも知れないけど、本屋でも言った通り、基本、暇してるからさ」
私は、彼にそう言った。本当の気持ちだ。
「そっか。ありがとな、俺も暇な時間が減って助かるよ。早見さん」
彼は、優しい瞳で私に微笑んだ。見たことのない、彼の表情。その姿に、私は、目が離せなくなった。
「ん?どうした、俺の顔に何か付いてるのか?」
「あ、いや、き、気にしないで!ちょっと、ボーッとしてただけ!」
思わず全力否定する。自分がどんな顔をしてたのか分からないけど、あのまま見ていたら、変な誤解をされそうだった。
「そうだ、せっかくだし、この本について話そうよ。ファンの人、友だちにいなくてさ。誰かと話したいと思ってたんだよな」
彼は、ウキウキした表情で、紙袋から今日買った本を取り出す。『君の本音』だ。
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