第1章 君の気持ち

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「いつもありがとうございます!今日は、彼女さんと来られたんですか?」  店員さんが彼に聞く。慌てて、私は、否定する。 『ち、違います!友だちです!』  また、声が合った。それを見て、店員さんは、くすっと笑った。 「それは失礼しました。仲良さそうにしていたので、つい。では、ごゆっくりどうぞ。失礼します」  まだ笑顔のまま、立ち去る。完全に誤解している。 「あの、私たち、友だちなんだっけ?」  否定しようと出た言葉だったが、よく考えたら、友だちと呼べる仲にはなっていない。今日は、たまたま会っただけだ。 「早見さんはどう思ってる?俺は、その、友だちになれたらと思って言ったんだけど」 「わ、私も。……友だちになりたいよ、藤くんと」 「……そ、そうか。じゃあ、これからはそうしようぜ。小説のこと、もっと話したいし」  照れくさそうに、彼は、アイスコーヒーを飲む。私も、ストローを口に咥え、アイスティーを飲む。 「……うん、じゃあ友だちだね。私たち」  私の言葉に彼はボソッと、ああ、と返した。  喫茶店の帰り道、私たちは一緒に歩いていた。どうやら、彼の家は、私の家と近いらしい。駅近くのマンションと言っていたので、まず間違いない。私の家も、そこから数分歩いたところにある一軒家だ。  辺りはすっかり暗くなっていた。まぁ、夕日が出ているから、問題はないけど。いつの間にか、長話していたらしい。楽しかったからいいけどね。 「今日は、ありがとう。本に、食事まで奢ってもらって。本当に払わなくて良かったの?」 「いつまで言うんだよ。気にするなって言ってるだろ?早見さんは、心配症だな。ははっ」 「べ、別にそんなことはないけど。藤くんがいいなら大丈夫だよ」  ポケットに手を入れたまま、彼は、立ち止まった。 「なぁ、お願いがあるんだけど」  何だろう。 「……早見さんのこと、下の名前で呼んでもいいか?ほら、友だちだろ。俺たち」 「えっ。あ、そうだね。うん、いいよ。じゃあ、私も、これからは下の名前で呼ぶね」  すると、彼は右手を差し出してきた。よく分からなくて、私も、左手を差し出す。 「天然か!バカ、それだと握手できないだろ」  あ、なるほど。握手ね。 「よろしくな……志歩」  夕日に照らされ、彼の顔は赤く染まる。  
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