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そんな私は、化粧をしなくても大丈夫なのだ。
「してないよ。何で?」
「うーん。あなた、綺麗になった気がするわ」
ほう。それは、嬉しい。同じ女性であり、毎日顔を見ている母が言うのだ、間違いないだろう。
「確かに。ちょっと変わったな」
父も、私の顔を見てそんなことを言ってくる。
照れちゃうよ、父さん。
「ふーむ、色気のない志歩が恋でもしたか?まさかな、ははっ」
怒るよ、父さん。
「失礼ね、私だって女の子よ!父さんには、デリカシーってものが無いわけ?」
呆れて、お茶を飲み干す。
「いや、悪い悪い。怒るなよ、志歩。父さんが悪かった、な!」
手を合わせ、軽く頭を下げる父。まったく。ふん。
私は、構うことなくご飯を食べ続ける。
「あなた……だめよ、志歩はお年頃なんだから」
「そ、そうか。すまんかった」
父と母の会話を聞きながら、私は、思った。
……恋か。そんなもの、したことない。
ふと、彼の、藤くんの顔が頭に浮かぶ。別に、彼は、違う。ただの友だち。そう、これからは下の名前で呼ぶ仲だ。……奏太か。一応、練習しておこう。男の子の友だちは、他にもいるけど、休日に会うほどの仲ではないからなぁ。
そう。彼は唯一、土曜日に一緒に過ごした相手。
いやいやいや。こんな言い方は、変だ。まるで、彼氏みたいな言い方だ。友だちなんだ。友だち。それだけ。特に付け加えるほどの関係ではない。
「……ごちそうさま」
手を合わせ、箸を置く。ちゃんと、完食した。お皿を流し台に持っていき、洗面所で歯を磨く。バッグを手に取り、ドアを開ける。
「行ってきまーす」
行ってらっしゃい、と母の声が聞こえたところで、扉を閉めた。空は、青々としていた。気持ちの良い晴れ空だ。
学校に着くと、廊下で由実に会った。
「おはよー、志歩」
手を振って、由実が近づき横に並ぶ。
「うん、おはよ」
「……志歩」
まじまじと顔を見てくる由実。
「な、なに?」
「表情変わったね」
は? 何を言っているんだろう。
「明るくなったね、いや、可愛くなった。女の子っぽいよ」
私は、女だ。女の子っぽいではない。でも、可愛いという言葉に弱いので、少しにやける。
「そ、そうかなぁ。いつもと同じだけど」
「ううん、絶対変わった。親友にはわかる」
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