第1章 君の気持ち

12/12
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 そんな私は、化粧をしなくても大丈夫なのだ。 「してないよ。何で?」 「うーん。あなた、綺麗になった気がするわ」  ほう。それは、嬉しい。同じ女性であり、毎日顔を見ている母が言うのだ、間違いないだろう。 「確かに。ちょっと変わったな」  父も、私の顔を見てそんなことを言ってくる。  照れちゃうよ、父さん。 「ふーむ、色気のない志歩が恋でもしたか?まさかな、ははっ」  怒るよ、父さん。 「失礼ね、私だって女の子よ!父さんには、デリカシーってものが無いわけ?」  呆れて、お茶を飲み干す。 「いや、悪い悪い。怒るなよ、志歩。父さんが悪かった、な!」  手を合わせ、軽く頭を下げる父。まったく。ふん。 私は、構うことなくご飯を食べ続ける。 「あなた……だめよ、志歩はお年頃なんだから」 「そ、そうか。すまんかった」  父と母の会話を聞きながら、私は、思った。  ……恋か。そんなもの、したことない。  ふと、彼の、藤くんの顔が頭に浮かぶ。別に、彼は、違う。ただの友だち。そう、これからは下の名前で呼ぶ仲だ。……奏太か。一応、練習しておこう。男の子の友だちは、他にもいるけど、休日に会うほどの仲ではないからなぁ。  そう。彼は唯一、土曜日に一緒に過ごした相手。  いやいやいや。こんな言い方は、変だ。まるで、彼氏みたいな言い方だ。友だちなんだ。友だち。それだけ。特に付け加えるほどの関係ではない。 「……ごちそうさま」  手を合わせ、箸を置く。ちゃんと、完食した。お皿を流し台に持っていき、洗面所で歯を磨く。バッグを手に取り、ドアを開ける。 「行ってきまーす」  行ってらっしゃい、と母の声が聞こえたところで、扉を閉めた。空は、青々としていた。気持ちの良い晴れ空だ。    学校に着くと、廊下で由実に会った。 「おはよー、志歩」  手を振って、由実が近づき横に並ぶ。 「うん、おはよ」 「……志歩」  まじまじと顔を見てくる由実。 「な、なに?」 「表情変わったね」  は? 何を言っているんだろう。 「明るくなったね、いや、可愛くなった。女の子っぽいよ」  私は、女だ。女の子っぽいではない。でも、可愛いという言葉に弱いので、少しにやける。 「そ、そうかなぁ。いつもと同じだけど」 「ううん、絶対変わった。親友にはわかる」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!