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そう言って、彼は前を向いた。授業中だから、当然だけど。何だか、そっぽ向かれたような感じで、ちょっと寂しかった。私もすぐに前を向く。
ふと、ちらっと彼の顔を見た。すると、私の視線に気づいたのか、彼も私を見てきた。
思わず、目が合う。
すると、彼はすぐに目を逸らした。そうだよね、急に隣の人が見てきたら、そうなるよね。
それからだった。彼は、授業中にも、掃除中にも、私とは話さなくなった。
どうしてだろう。理由が分からなかった。
たまに目が合うときは何度かあった。不思議と。
「何でだろう」
「何が?」
親友の由実ちゃんが、私に尋ねる。どうやら、心の声が漏れてたみたいだ。
「あ、いや、その。何でもないよ、うん!それより、ご飯食べよ!」
誤魔化そうと取り繕う私を、変に思う由実ちゃん。けど、それほど気にはならなかった様子で、「分かった。じゃあ、中庭行こう!」と、弁当を持って教室を出た。私も、うんと頷き、付いていく。いつの間にか、授業は終わって、もうお昼だ。
彼が私と話さなくなって3週間。こんなに長い間、一度も話さないことってあるだろうか。ケンカしている相手、嫌いな相手なら分かる。でも、悪いことをした記憶はない。されたこともない。
じゃあ、何故?
考えても、答えは出なかった。そんな気持ちとは、裏腹に食事の箸は進む。
「はぁ」
「志歩。あなた、大丈夫?今日、ううん、最近、なんか変だよ」
また、心の声が漏れていた。
親友の由実は、心配そうに私を見てくる。話してみようかな、気分も楽になるかもしれない。
「由実、実はね……」
一通り、話すと由実はうーん、と唸った。
どうしたんだろう、お腹でも痛いんだろうか。
「……志歩、さては、あなた、惚れたね?」
「……はっ?」
親友から出たのは、予想外の台詞。
惚れた? 誰が? 誰に?
一瞬、何のことを言っているのか、分からなくて考える。そして、気付いた。
「っ!ち、違うよ!そんなんじゃないから!断じて、違う!」
「いやいや、それは絶対そうだって。あなた、変なところあるからね、藤みたいな男が好きになるのも十分分かるよ」
『好き』という言葉に反応して、身体が熱くなる。
「ほら、顔が赤くなった」
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