第1章 君の気持ち

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 由実が私の顔を指差して、ふふっと笑う。 「これは、由実がいきなりそんなこと言うから!て言うか、藤くんのことなんて、好きじゃないから!」 「ふーん、そうなの。違うんだ。そうだと、思ったんだけどな~」  残念そうに、ミートボールを食べる由実。 「どこをどう考えたら、そんな結論になるのよ!話さないのは、何でか気になってるだけでしょ!」 「まぁ、女の勘?でもさ、志歩。それって、あなたが藤と話したがってるから、気になってるんじゃないの?」  思わず、息を呑んだ。  私が、話したがっている。藤くんと?そんなこと、思わなかった。けど、どこか納得している自分がいたのは確かだ。由実の言う通り、そうなんだろうか。  好きではない。それは違うと思う。ただ、いきなり、態度が変わったから、気になっただけ。それだけ。その、はず。そのはずだけど……。  もし、そうじゃなかったら?  まさかね。  由実は、まだ笑っていたけど、茶化されるだけだから、その話はおしまいにして黙って弁当を食べた。  二日後。土曜日。特に講座もなく、部活もないので、私は久しぶりに本屋へ寄った。  学校から、歩いて十数分程度の割と近い距離にある、大型のチェーン店だ。  色気のない私は、女性雑誌を立ち読みに来たわけではない。CDでもない。かと言って、マンガでもない。私がここに来た目的。それは、小説だ。  ほんとに色気ないね、と誰かが心の中で呟いたような気がするけど、まぁいいや。一応、客ですから。楽しみにしている新刊が、今日、発売日なのだ。  その本の名前は、『君の本音』。一見すると、ベタな名前の恋愛小説だ。ところがどっこい、違うんだよね、これが。この本は、ミステリー作品だ。もう、六冊もシリーズ化されている人気作品なのです。  話の内容は、とにかく面白い。女の刑事さんが主人公なんだけど、彼女は心理術に長けていて、次々と犯人の嘘を見破る。決め台詞は、こうだ。  『君の本音は、見破った』  うん、カッコいい。私も、こんな女性に憧れる。そうそう、この本には、彼女の相棒として、男の刑事が出てくる。その人のことが彼女は好きなんだけど、何故か、その男性刑事の気持ちだけは読み取れない。      
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