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だから、ファンの間ではこの本は、単なる台詞の前部分を書いたわけではなく、別の意味が込められているんだと思われている。
それは……『君の本音を聞かせて』。
そう、主人公の想いを綴ったタイトルだ。
もしかしたら、私も……。いや、そんなことより探さないと。
「えっと、新作は、ここの売り場だよね……」
多数の作品が、平積みに並べられて置かれているところを見る。大衆小説だから、あまり可愛い絵がしたものは置いていない。最近は、ライト文芸っていう大衆小説とライトノベルの間のジャンルもあるらしい。面白いのかな。今度、買ってみようかな。
「あ、あった!」
目当ての作品を見つけて、手を伸ばす。すると、横にいた人も作品を取ろうとしたらしく、手が重なってしまう。
「あ、すみません!」
思わず手を離し、謝る。
「いや、こちらこそ!すみま……あれ、早見さん?」
「え?」
意外なところで、名前を呼ばれ、その人の顔を見る。そこにいたのは、藤くんだった。
「藤くん!」
「やっぱりそうか。偶然だな、こんな所で」
ほんとにそうだ。これこそベタだ。
「そ、そうだね。藤くんも、この本を買おうと思ったの?」
私の言葉に「まぁな。ミステリーが好きだからさ。ほら、分かんないと思うけど、俺、たまにひとりで本を読んでるだろ?」と藤くんは、言った。
そういえば、教室でたまに読んでいる。その中に、この本のシリーズもあったかもしれない。過去の記憶が蘇り、懐かしくなった。
「早見も好きなんだろ?」
「……えっ?ええっ!?」
す、好き?どういうことだろう。彼は、一体、急に何を言い出しているんだろうか。そんなこと、こんな所で言われても。
「どうしたんだ?好きじゃないのか、この本?」
本? あ、本。
ドキッとしていた心臓は元の速度に戻り、我に返った。そっか、本のことだよね。
何を焦っているんだろう、私。変だな、やっぱり。
「う、うん。ファンだからね。全部、読んでるの。藤くんも?」
「当たり前だろ、シリーズ作品の途中から買わないだろ。普通」
その通りだ。
「……そうだね。ごめん、先にどうぞ」
「ああ。分かった」
彼は、その本を二つ、手にした。
「あの、何で、二つ?」
あれかな、保管用とか。ううん、誰かにあげるためとかかな。
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