第1章 君の気持ち

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 にしても、チェーン店じゃなくて、レトロなところを選ぶんだなぁ。  私は、着いた喫茶店を見て、思った。赤レンガの外装に、木目調の取っ手付きのドア。テーブルもイスも、シャンデリアも、どれもアンティークな店内。 窓際には、小さな観葉植物が置かれており、テーブルには、呼び鈴が置かれている。中は普通の広さで、落ち着くBGMが流れていた。  女性の店員さんに案内され、奥の席に座る。  フカフカのソファだ。良い感じだ。 「あの、私、こういう所、来たことないんだけどさ。藤くんは、よく来るの?」 「毎日、来るよ」 「ええっ!?」  びっくりして、変な声が出る。横側の席にいた老夫婦が、くすりと笑った。 「嘘。ほんとは、土曜日だけ」  彼は、真顔でそう返した。  嘘って、そんな冗談めいたこと言うタイプとは思わなかった。でも、土曜日は来るのか。 「いつも、友だちと来るの?」 「いや、ひとり。こんな所、誘って来るような男子、うちの学校にいると思うか?」  彼は、笑って、私を見る。 「そ、それもそうだね、ははっ」  ひとりって、すごいなぁ。私だったら、こんなオシャレなところ来れないや。絶対、外から眺めるだけで終わっちゃう。 「注文してもいいか?」  メニューを取り、聞いてくる。 「うん、どうぞ」  呼び鈴を鳴らすと、先ほどの女性店員さんがやって来た。 「ご注文ですね、何に致しますか?」 「アイスコーヒーに、ハムサンドください」  早々と注文する彼。 「はい、分かりました。お嬢様は?」 「え、あ、はい!私は、えっと……」  慌てて、メニュー表を見る。どうしよう、何にしよう。よく考えたら、まだ決めてなかった。 「えっと……うん、と……」  悩む私を見て、彼が、また注文し出した。 「アイスティーひとつ。あと、ハムサンド追加で」 「アイスティーに、ハムサンド追加ですね。ご注文は、以上で宜しいですか?」  店員さんの問いに彼は、頷いた。店員さんは、丁寧に頭を下げると、奥へと向かった。 「あ、あの、私まだ……」 「あ、悪い。代わりに早見さんの分も頼んで。注文、決まってなかったみたいだからさ」  彼は、私の分も頼んでいてくれた。何気ない優しさに、何だか、心がぽかぽかしてきた。 「ごめんね、馴れてなくて。初めてだから」  
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