第1章 君の気持ち

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「前回の事件は凄かったよね、密室でアリバイも完璧。なのに、犯人を当てちゃうんだもんね」  話の内容を思い出しながら、彼に話す。すると、彼も相づちを打ちながら、話してくる。 「そうそう、あれは予想外の結末だったよな。俺はてっきり、あの店長が怪しいと思ったんだけど」 「私も。でも、監視カメラにはしっかりと映ってたんだよね。最初は、日時とかを細工したんじゃないかと疑ってた」  うんうん、と彼は喜ぶ。どうやら、同じ予想をしていたみたいだ。 「けど、違った。犯人は、まさかの同じアルバイトの子!あんな方法で殺害するとは思わなかったよなぁ」 「そうなんだよ!鍵は被害者しか持ってなかった。内側から閉められていたのに!あんなの、普通、思い付かないよね!」  私も段々と興奮してきて、会話が楽しくなる。 「だよな!トリックも凄いけど、やっぱり、主人公の心理術に圧倒されるよ!」 「カッコいいよね、そして、あの名台詞!」  ここまで話したところで、私たちは身を乗り出していた。テーブルの真ん中で、顔が近づく。 『君の本音は見破った!』  同時に、指を指して、言葉を発する。瞬間、彼と、鼻が触れそうなくらい、近づいていることに気づく。 お互い、顔が赤くなる。彼の鼻息が伝わってきて、心臓が破裂しそうになる。そーっと、お互いに離れる。  暫しの沈黙。BGMだけが静かに流れてくる。ちらっと、彼を見ると、窓の向こうを見つめていた。 「……あの、ごめん。大きな声出して」  ひとまず、謝る。別に謝る必要はないのかもしれないけど、とりあえず。何か言わないと、場が持たない気がした。 「……こっちこそ、悪い。盛り上がり過ぎた。でも、早見さんと話してると、何だか楽しくてさ」  その言葉に思わず、ドキッとする。彼は、平然とそう言うけど、普通なんだろうか。こんなの、私の知っている普通とは違う。そう、まるで、これじゃ……。 「お待たせしました!」  不意に声がして振り向くと、さっきの女性店員さんがいた。手には、お皿を二つと、グラスを二つ持っている。注文したものだ。 「アイスコーヒーに、アイスティー。ハムサンドをお二つですね」 「ありがとうございます」  彼がお礼を言う。持ってきただけなのに、変に礼儀正しいところがあるなぁ。
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