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「習志野です」
「入れっ」
マカボニーの重厚な扉の向こう側に、我が東京ベイ・小早川晃祐(コバヤカワコウスケ)支配人は居た。
「失礼します」
私が支配人とまともに顔を合わせるのは、初めてかもしれない。
輸入物応接ソファセットに、壁面には青い昇り龍の絵画。
黒壇のプレジデントデスクの椅子に腰を下ろし、キレイな黒真珠色の切れ長の目で私をジッと見ていた。高い鼻梁に整った顔。
御年30歳独身の次期ホテル王。
ホテルの全女性従業員の憧れの的。でも、彼は私の好みのタイプじゃない。
眉間にシワを寄せて腰を上げた。
キレイにセットされた黒髪には全く乱れがない。
「お前が習志野優亜か?」
「はい、小早川支配人」
「・・・社長から言われたかもしれないが、俺はお前を婚約者とは認めないぞ!!
全く父さんもバカげている。AI(人工頭脳)のマッチングでこの俺の結婚相手を決めるなんて・・・」
ーーーーえっ??
「!?もしかして…お前・・・社長からまだ何も聞いてないのか?」
「・・・はい・・・」
「そうか…なら…社長から話をされれば、お前の方からも断っておいてくれ。いいな。習志野」
小早川支配人は私を睨みつけ、念を押す。
「あ、はい・・・承知しました」
「話は以上だ。下がっていいぞ」
「失礼しました・・・」
私は支配人にペコリと頭を下げて踵を返して、ドアに向かった。
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