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俺は本館29階のプレミアムスイートを訊ねた。
ノックすると、浅香先生本人は自らドアを開けて出迎えてくれた。
「どうぞ、支配人」
「失礼致します」
俺は軽く頭を下げて部屋の中に入った。
直樹賞作家として活躍する浅香先生は、当ホテルのスイートを執筆部屋としていた。
「副支配人から訊いたよ。AIが決めた女性と婚約したんだって」
「まぁ」
俺は柔らかな笑みを浮かべて答えた。
「まぁ、座って」
リビングルームのソファにお互いに腰を下ろし、話を交わした。
話題は俺と優亜の婚約話。
「しかし、世間って狭いね。支配人の相手はホテルの従業員でしょ?」
「正直な話。彼女のコトは知らなくて・・・」
300人近い、従業員が働く巨大ホテル。従業員の顔なんて、いちいち憶えていない。
「そうなんだ・・・で、第一印象はどうだったの?」
「え、あ・・・」
このまま、浅香先生の質問に素直に答えていけば、小説のネタにされるかもしれない。
「どうと言われても・・・赤い運命の糸は感じませんでした」
「あれ?副支配人の言葉だと・・・相手の子を溺愛していると訊いたよ」
夕都のヤツ・・・浅香先生に余計なコトを言って・・・
「それは・・・」
「でも、結婚するんだよね・・・」
「・・・まぁ、そのつもりです」
ワインの勢いで手を出してしまったし、ホテル王の椅子は欲しいし。
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