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第二章 交遊
あの日、一緒に帰ってくれて本当に嬉しかったです。断られる事を覚悟していたからーー勇気を振り絞って言った時の緊張感を、未だに覚えています。
美雨とは共通点が多くて、会話が全く止まらなかった事に驚きました。
異性とは、会話が弾んだ事が無かったので、正直何を話せば良いのか混乱していましたが、他愛も無い話で笑い合える事を知りました。
偶然、僕達は家が近い事が分かって、あの日以来、互いの家の中心にある公園で、よく座って話をしたよね。
美雨と会う日は、決まって小雨が降っていたから、屋根付きのベンチが定位置でした。
僕達の一番の共通点は、互いに夢を持っている事でした。美雨は一人前のバレリーナになって、舞台で活躍する夢ーーそして僕は、小説の公募で新人賞を受賞し、筆一本で食べていける作家になる夢。
そんな、互いに夢を追い、夢を語る日々が一年続き、次の年の六月七日ーー僕達は改めて交際する事になりました。
二人で、飽きずに夢を語っていた、あの時間が懐かしく感じます。そして、その美しい思い出は、決して色褪せる事なく、今も胸に染み付いています。
あの頃の僕は、夢を語っている割には、現在の事にしか眼を向けていなくて、未来の事を真剣に考えていなかったーーいや、正確には、考えられなかったのです。
舞台のオーディションに落選し、落ち込んでいる美雨を慰める傍ら、自分より先へ進んで行かないで欲しいという焦り、不安を感じるようになりました。
終いには、自分が公募に落選した時、落胆した心情を怒りに変え、美雨に八つ当たりをした事もありました。
初めて美雨に出会った六月七日から、五年間ーー僕たちの関係は、繋がってはいるものの、互いに全く前進しない関係性、距離感を保っていました。
美雨を心から想う気持ちはありましたが、この様な関係性に、果たして意味があるのか、と疑問を持つ様になりました。
この頃から、美雨と会えば会うほどーー雨は勢いを増して降り始めました。
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