第四章 六月七日

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雨は、悲しみを流してくれる。 雨は、涙も隠してくれる。 空から舞い落ちてくる水滴が、全て身体で吸収していくように、溢れても、溢れても込み上げてくる涙を瞳に溜めているとーー 先程まで降っていた雨が嘘の様に止み、目の前が穏やかな陽光で包まれた。 頬を伝った滴を腕で拭い、バス停の外へ一歩出るとーー真っ青な大空に架かった、美しい七色の輝きが、心の奥へ染み渡るように浸透していく。 雨で濡れた髪から滴る水滴と、瞳から再び溢れ出る涙が一粒の雫となり、地を濡らした時ーー。 水溜りが空を反射し、雨で色濃くなった地から君の香りを感じ、噛みしめるように言った。 「もう、傘は必要ないよ」
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