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 屋根の上に立った美羽は、疎らに立ち並ぶ家を見渡す。  額に薄く汗が浮くほどの陽気に顔を上げると、真上に移動した太陽が眩しいほどに光を注いでいた。 「…えーと……ここから近い分家は…」  ポケットから折り畳んだ地図を取り出して確認すると、一つ頷いて屋根を蹴る。  いくつかの屋根を渡って、辿りついた屋敷の庭に降り立った。  三沢家を含む分家の全てが、今となっては空き家となっている。  周囲にそれとなく訊けば、この三カ月ほどの間に立て続けに不幸があったらしい。  三沢家五代目の執念たるや一体どれほどかと思わずにいられない。 「……土足でお邪魔します」  誰にともなく呟いて、美羽は庭から濡れ縁に上がり込む。  朽ち始めた立てつけの悪い障子を引き開けると、途端に広がる生臭い匂い。  うえ、と呻いて美羽は思い切り顔を顰めた。  実際の匂いではない。  言うなれば、瘴気(しょうき)。  この家の中に凝る、どす黒い誰かの思念。それも、複数の。  美羽は眉を顰めたまま、ゆっくりと思念の中心へと向かう。  足を進めるたびに、瘴気は濃く重くなった。不機嫌な顔を更に歪めて、美羽は真っ黒に塗り潰された襖の前に立つ。 「……趣味悪い」     
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