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「お守り、渡したんですよね?」
美羽がコーヒーをカップに注ぎながら尋ねるのに、乱暴に髪を掻き上げながら頷く。
「まあ、あれは即席だったけど…破られたんなら、それなりの反応があるはずなのに、それが一切なかった」
ふうん、と唇を尖らせた美羽は、湯気の立つカップを差し出しながら首を傾げた。
「なかなか手強そうな相手ですね」
受け取ったカップに口をつけながら、眉間に深く皺を刻んだ凪子が小さく鼻を鳴らす。
「…忌々しい」
低く呟かれた声はまる呪詛のようで、美羽も同じようにコーヒーを飲み下しながら眼だけで凪子を見た。
「あーあ…凪子サンのスイッチが入っちゃった」
こわーい、と肩を竦めながら、ふと気付いたように凪子を見る。
「でも、依頼人が死んじゃったら、報酬はどうなるんですか?」
しん、と沈黙が下りる。
CMへと切り替わったテレビから、空々しい音楽とナレーションが流れた。
ごくん、とコーヒーを飲み込んで、凪子はぼそり、と気まずそうに呟く。
「…ただ働き…?」
なるべく彼女を見ないように言った凪子に、美羽が半眼で見据える。やがて、はあ、と溜息を洩らして、ソファに腰を下ろした。
「凪子サンは、一度関わっちゃったら放り出せない性分ですもんね」
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