14/19
前へ
/123ページ
次へ
 彼らが一体どんな会話を交わしていたのかはわからない。  けれど、彼女の表情を見ていれば、おおよそはわかる。  きっと何気ない日々のこと。  かけがえのない時間が、確かにここに流れていた。  彼女を亡くして、きっと悲しかっただろう。 「――――――――― でも、千禍自身の憎しみは感じなかった…」  ここに残る憎悪の念は、最後に見た老人のものだけ。  ちくりと、微かな痛みを感じた胸をそっと押さえる。  ああ、これは  切なさだ。 「千禍は、憎しみよりも、きっと悲しみの方が強かったんだ。でも、使役として命令を下されれば、従わざるを得ない。人の憎しみに引きずられるのは…」  込み上げてくる涙を堪えて、美羽は消え入りそうな声で呟いた。 「……辛いね」  
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

305人が本棚に入れています
本棚に追加