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始まりは、神様から?
「あなたは、神様を信じますか?」
って、街頭で背広を着た白髪まじりの紳士が、道行く人に語りかけていた。
ふーん、新興宗教の勧誘だね、きっと?
俺はさして気になどしなかったが、その中年男を何気なく見つめてしまっていた。
道行く人は、誰ひとり足を止めたりなんてしないよ。
だって、『あなたは、神様を信じますか?』って、誰かに個別に訊いてるわけでもなく、真っすぐ正面を向いて喋っているだけだもの。
――でも、ちょっとヘンな気がするよね。
俺はそう思いながら先を急ぐことにした。
その時、
「そこの青年、何かお願い事はありますか?」
って呼び止められた。
――ゲッ、俺をターゲットにするつもりかよっ!
「お願いですか? えっと、ですねぇ……」
あれ? 勝手に口が動いてる?
――何だ、どーした?
俺は、商談がうまくいったせいで、気持ちが高揚していたのか、何でもOKの受け身状態になっていたのだ。
それを見透かしたように、その白髪中年男は間髪を入れず、
「幸福を受け取りませんか?」
と連射攻撃を仕掛けてきたのだった。
「そりゃ、幸福は欲しいですけどねぇ……」
――本音だ。本音に決まってる。
「それじゃ、一つお願い事を叶えてあげましょう」
白髪中年男が笑みを浮かべながら両腕を開いた。
「すっごく可愛い、俺好みの恋人がほしいです!」
あーっ、また、口が勝手に動いてしまった。
「それでは――」
その中年男は、右の人差し指を空に向けてクルクル回し始めた。
「この者に、神の御加護を。祝福あれ」
次の瞬間、俺は七色の光に包まれていた。
何だこれ、何処からかスポットライトでも当ててるのか?
そう思った瞬間、ちょっぴり時間が飛んだように思った。たぶん錯覚だけど……。
「これで、あなたの願いは成就するでしょう。では、二千円くださいませ」
白髪中年男がニマッと笑った。
「えっ、えっ?」
やっぱりか……。
思った通りそういう事だったんだ、ただの金儲けだ。
しかし、あまり怒る気にはならなかった。
それは、さっき成功した商談が、輸入家具の大量購入という俺にしては初めての大型の営業だったからである。
人間、おおらかな気持ちでいるのが一番なんだ。
俺は、ここは成り行きでいいかと思った。
「わかりました」
俺は素直に、お金を手渡した。
――まあ、二千円だし、それくらいなら寄付したと思えばいいんだ。
「ほら、もうすぐ、あそこに現れますよ」
「えっ、何処に?」
男の指すその方角に目を向けると、人だらけで、誰のことを指しているのか、さっぱりわからなかった。
「どの子です?」
白髪中年男に振り返ると、もうそこには、その姿がなかった。
ふと、上空を見上げると、その白髪男がゆっくりと舞い上がりながら、姿かたちがゆっくりと消えていくではないか……。
「ゲッ、何?」
その表情には、満面の笑みが漂っていた。
――その時、
「デシッ!」
と鈍い音がして、続いてケツに痛みが走った。
見るとそこには、俺好みの可愛い女の子がこっちを睨んで立っていた。
俺は、お尻に蹴りを一発入れられていたのだった。
あれ? この子、さっき電車に乗り合わせていたような……。
そして、
「ヘンタイ!!」
という声に我に返った。
――えっ、えっ、えっ、えっ、えーっ!! 何だーーー!!!
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