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魔女ママ、登場。
「あらら、あなた達の関係、ちっとも変らないのね」
声のする方に振り向いた。
カウンターの奥の席で、頬杖をついた女性が、こっちを見ていた。
派手なピンク色のワンピースに茶髪のロングヘアー、厚化粧が、いかにも酒場の女って感じの美人だった。
――あっ、玲奈のママの麻里子さんだ。
そっちこそ、全然、変わってないじゃないか……いや、前より、派手さが増している。
というか、より女の色気が増進しているんだ――。
でも、当時から大人のみならず、その艶めかしい魔力は、子供の自分達さえも、虜にさせるほど強烈なインパクトがあったよな。
そういや、『魔女ママ』って呼んでた。
そうだそうだ、『魔女』だ『魔女』。
化粧が濃かったせいもあったが、いつも、つばの広い黒い帽子に黒いドレス、赤いハイヒールを履いて、長いパイプでタバコをプカプカ吹かせながら、そのまま近所を練り歩いていたものなあ。
そのせいもあり、玲奈を恐れていたもかもしれない……。
しかし、以前よりは、魔女度は薄くなり……、いや、そう簡単に人間の本質というものは変わるもんじゃない。むしろ、内面の魔性力の方が向上しているんだろう。
やっぱり、注意しておいた方がいい。
俺は、秘かにバリアを張った。
「ども、お久振りです」
立ち上がって、頭を下げた。
「ウゲェ」
瞬間、またも玲奈のヤツがネクタイを引っ張るもんだから、バランスを崩してしまい、ソファの上に転がってしまった。
「ほんとに、ごめんね、健ちゃん。誰に似て、こんなSっ気のある子に育ったのかね」
近寄ってきた麻里子さんは、テーブルにコーヒーを出しながら言った。
育ったんじゃなくて、生まれつきの性格に決まってるんじゃないの?
と心で返しながら、玲奈が手を離した隙にネクタイを外した。
そうだ、思い出した――。
麻里子さんは、周囲のみんなに、
『麻里子さんと呼んでね。ゼッタイよ』
って、子供達に言いきかせてたじゃないか。そうだ、そうだった。けっして、玲奈のママとか玲奈のお母さんなんて呼ばせなかったんだ。
やっぱり、玲奈のわがままな性格は、麻里子さんから受け継いだものだったんだ、きっと……。
「こんにちは、万里子さん」
浅井美奈が挨拶をした。
「はい、いらっしゃいませ」
麻里子さんは、チーズケーキを三つ並び終えて、微笑んだ。
ちょっと、待ってよ。浅井さんと玲奈って、どういう知り合いなの? 友達?
それに、この店は、麻里子さんのお店?
そういえば玲奈は、小学校卒業と同時に引っ越しして、別の中学校へ行ったんだった。どこの中学校だったか、はっきりと覚えてはいない……。
浅井美奈とは、中学で出会い、三年間ずっと同じクラスだった。
もちろん初恋の相手で、告白なんて出来ずに、あこがれのまま、卒業してしまった。
高校は、『凜華女子大付属高校』へ行った。
女子高なので、追っかけて入れるわけもなく、あきらめて公立高校を受験した。それで、お別れということになり、俺の初恋は終わったのだった……。
「ねえ、なんで玲奈と浅井さんが知り合いなんだよ」
とにかく、疑問は解決しておこう。でないと、気になって落ち着かない。
ましてや、三年ぶりに恋の復活となってしまった今では……ね。
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