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やっぱり、恋愛の神様?
あの中年男が、何者であるかなんてわからない。
ただ、「あなたは、神様を信じますか?」って問いかけてきただけだった――。
願いを叶えて貰う代わり、二千円払わされ、気付くと天上に舞い上がっていった中年男。
もしかして、ホントに神様?
なんて、勝手に思い込んでしまったが、よくよく考えてみたら、あのパフォーマンスは、ただのスーパー・イリュージョンに違いない。
玲奈のヤツが、いきなりケツに蹴りを入れるものだから、俺の中で、神様に確定してしまったではないか。
しかし……よく見ると、玲奈は、俺好みでも、すっごく可愛いというわけではなかった。
さっきは、天上に舞い上がっていったオッサンを見て、頭がヘンになっていたに違いない。だから、俺好み女の子と錯覚してしまったんだ。
俺は、ゼッタイ恋人にしたいなんて、死んでも思わないぞ!!
「ねっ、どこ連れていくんだよ。俺、仕事中なんだけど――」
虚しく声を張り上げた。
「黙って付いて来い!!」
って言われてもね。
この姿、如何にも、犯人扱いなんですけど……。
ここは? とある喫茶店――。
ケツを蹴ったお詫びにお茶でも――まさかゼッタイあり得ない。それどころか、俺に何か奢らせるつもりなんだ!
いや、すでにツケがあって、俺に払わせるつもりで、引っ張って来たんだ。そうに違いない……。
玲奈は有無を言わせず、俺をソファに座らせた。
この店は昼間は喫茶店だが、夜にはスナックバーになるらしい。カウンターの奥の棚には、各種のアルコール類が並んでいた。
今は午後二時過ぎ、四、五時間もすれば、静かなムードのある店内も、アルコールとカラオケが満ちた狂乱な店へときっと変貌するのだろう……。
店内には、他に客は誰もいなかった。
営業中には違いないと思うのだが、音楽すら鳴っておらず、シーンと静まり返っていた。
「なあ、アネゴ。俺に何か用事でもあるのか?」
何気なく口にでた。
――そうだ。小学生の頃、アネゴって呼んでたんだ。
俺は当時のことが、少しずつ頭に甦ってくるのだった。
しかし、今更、アネゴって呼べないよな……今、言ったけどね……。
「あたしは、健真の姉じゃないぞ」
ほら来た、上から目線の格下扱いが……。
「小学生の頃、そう呼べって言ってたじゃん」
「そんな昔のことをいつまでも、アンタ全然進歩してないんじゃないの」
玲奈は俺を横に座らせて、逃げないようにとネクタイを掴んだままだった。
「なあ、何か用なの? 俺さ、仕事の途中なんだよ。会社に戻らないといけないんだ」
「知るか、そんなの」
「ちょ、ちょっと、そんなこと言われても、困るよ」
俺は強引に立ち上がった。
「ウゲッ!」
立った拍子に首に圧力が……締まる、締まる、俺はお前のあやつり人形じゃないぞ!
「ぐるじい~っ」
あたふたしている俺に玲奈は冷ややかな声で、
「座りゃ、いいじゃん」
と言った。
そんなコントじみたことをやっている時、店の扉が開いた。
客が来たみたいだ。
俺は仕方なくソファに座り直した。
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