一章 墓守りの青年

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「もう……。どうして、私を公爵にしたがるのよ、二人とも……」  眉を寄せて、リフィーアは両親が眠る墓地に向かいながら呟いた。  生まれてすぐ両親を事故で亡くし、孤児になってしまったリフィーアを叔父の家族はとても優しく、家族のように接してくれる。  公爵の娘としてではなく、庶民として一人で暮らしているリフィーアを心配して、夜中でも顔を出してくれるほどだ。  なのだが、物心ついた頃から「父の後を継いで、公爵になれ」と同じことを何度も、何度も言われ続けている。  最近は、回数が多くなっていることもあって、あまり叔父の屋敷に行きたくないのが本心だ。 「……だから、最近、お屋敷には行きたくないのよ。もう……!」  道端にあった小石を蹴って、リフィーアは尚も呟く。 「今はただの一般人なんだから、私が公爵になったってしょうがないじゃない」  蹴った小石がころころと転がっていくのを目で追いながら、また呟く。無意識に頬も膨らませる。  最初は子供だったので、よく分からなかったが、十六歳になった今なら「前公爵の娘」だから後を継ぐのは理解出来る。だが、今は公爵家でも何でもないただの庶民だ。  そのように手続きをしたのは、叔父だ。  後になって言われてもお門違いだ。  そんなことを思いながら、リフィーアは道端をまだ転がっていく小石から目を離し、ふと前を見た。墓地と自宅、叔父の屋敷のちょうど中央あたりにあるいつもお世話になっているパン屋だ。  いつの間にか、ここまで歩いていたらしい。 「そういえば、もうパンがなかったんだっけ」  自宅に置いてある食糧を思い出しながら、リフィーアは呟いた。  ふと、生前の両親もこのパン屋を愛用していたらしいことを思い出した。 「お父さんとお母さんも喜ぶだろうし、ちょっと多めにパンを買って、お墓に供えよう♪」  両親とパン屋のことで少し気分も晴れ、リフィーアは軽い足取りで店内へと入った。
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