桜幻町

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 あれ…? 今まで灰色にしか見えなかった景色が今はこんなにも美しく色鮮やかに輝いている。    今まで見えていなかった、見ようともして来なかったその綺麗な景色に心を奪われた直智は心の底から感激した。  しばらくその場に立ち止まり、ザーザーと音をたてながら寄せては返す波とその遥か向こうで大きく構える眩い朝日を見ていると、隣の家の扉が開き隣家の女性が家の前の掃除の為に箒を片手に家から出てきて直智と鉢合わせをした。 「おはよう直智ちゃん」  女性はいつもの笑顔で直智に挨拶をした。 「あ、おはようございます!」  直智は女性の方へ振り返り、女性に対し軽く頭を下げ笑顔で元気な挨拶をした。 「あら…? フフフ」  まさか直智がきちんと挨拶を返すと思っていなかった隣の家の女性は面食らう。しかし、普段まともに挨拶も出来ない若者がしっかりとした笑顔を向け挨拶を返してくれたという事実が嬉しくて微笑んだ。  照りつける太陽の元、湿気溢れる真夏日には珍しい爽やかな風が吹く。  その心地良い風は桜幻島全体を優しく包み込み、どこからか運んできた微かに香る桜の匂いをいつまでもいつまでも漂わせていた。
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