桜祭り

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桜祭り

「それなら折角だし皆で一緒に行きましょうよ」 「そうだな、ついでに近くの酒屋に寄って酒を買い足さないと」 「え? アンタまだ飲むつもりなの? お医者さんにも止められてるのに…でもまぁ、桜祭りの時ぐらい大目にみますかね」 「イヤイヤ、医者に止められてるのなら大目に見ちゃ駄目でしょ…」  様々な会話を繰り広げながら親戚一同はテーブルの上の食器等を片付けながら外へと出掛ける用意を始める。一緒に支度をしていた直智の母はまだ片付けられていない皿に盛られた食材に手を伸ばし頬張る直智に声を掛けた。 「直智、アンタも一緒に行かない? 来年からアンタは本島に行くんでしょ? 今年が最後なんだよ?」 「うーん…今日は外には出ないで家でゆっくりするよ」  直智の否定的な返事に直智の母は少し悲しそうな表情になる。 「でも、明日は陽が沈んだ後、散歩がてら桜幻寺まで行くよ」 「明日は遠い思い出の神を称える日か…そんな日に桜幻寺に行く気になるなんてね…じゃ、留守番宜しくッ!」  口角を若干上げながら意味深な言葉を残した直智の母は、親戚達と共に玄関の扉を開け外へと出て行った。 「…遠い思い出の神の日に桜幻寺に行くことに何か意味があるのか? いつ行こうが勝手だと思うんだけどな、まぁどうでも良いけど」  母親の放ったその意味深な言葉は直智の心には響かなかったらしい。その言葉の意味を深く考えることもせず、目の前に置かれ未だ片されていない大皿の上に置かれている数本の焼き鳥の内の一本に手を伸ばし頬張った。 「ふぅ…流石に腹いっぱいだ。シャワーでも浴びて来るかな」  直智は立ち上がりながらまだ焼き鳥が数本置かれている大皿にラップをし、冷蔵庫へと運ぶ。そして水を一杯飲んだ後着替えを取りに自室へと向かった。
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