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それは雨が降る、学校の屋上での出来事だった。
フェンスを背にグラウンドを見ていたら、唐突に悲鳴が聞こえた。
空を見上げると、雨と一緒に人間のようなものが落ちてくる。咄嗟に手を伸ばしていた。
なんとかその腕を掴み、引き上げようと力を込める。
すると、その身体はふわっと舞い上がり、フェンスを越えて見事、屋上に着地した。
いつの間にか、雨は止んでいた。
「ありがとう。危うく死ぬとこだったよ」
そこには俺と同じ年くらいの女がフェンス越しにえへへっと笑っていた。
怖い。それが初めて彼女に抱いた印象だ。
明らかに普通じゃないが、確かに人の形をしている。他に違和感があることと言えば服装くらいだ。
「魔法使い……?」
彼女は二次元的な、まさにそれの格好をしていた。
「君はそう思うんだね」
一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、俺の言葉を否定することもなく笑顔に戻る。
「じゃあ、話は早い。お礼してあげるよ」
彼女は胸を張る。
「何でもいいよ。飴さえあれば何でもできるから!」
彼女の笑顔には曇りがない。
「あ、飴さえあればって……?」
ひとまず、話を合わせてみる。
「私たちは飴で、君たちの言葉でいう魔法を使うの」
だけど、言ってることがファンタジー過ぎて顔が歪む。
彼女はそんな俺の顔を見て頬を膨らませた。
「君、信じてないって顔してるね!」
図星だ。
「だったら、特別に魔法使ってあげる」
彼女は唇を尖らせながら「待ってて」と自分のポケットの中を漁る。
でも、すぐに彼女の顔は青くなっていった。
「飴、忘れてきたかも……」
へたり込み「どうしよう……」と頭を抱える。
俺は少し迷ったが、ポケットの中に手を突っ込む。だいぶ前に飴を貰って、入れっぱなしにしていたはずだ。
「ほら、やる」
フェンスの隙間からそれを渡した。
「えっ、貰っていいの? ありがとう」
彼女はすぐに顔を上げて受け取る。遠慮がない。
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