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この世界はどうやら彼女の故郷では魅力のない世界だと思われていたようだ。誰も行きたがらないから地球の知識が入ってこなかった、と彼女は話していた。
彼女はこの世界を地球と呼ぶ。俺がこの世界をこの世界と呼んでいたら、彼女は「世界は沢山あるよ」と困って、仕方なく惑星名を教えた。
「見て見て!」
彼女はひらがな練習帳を嬉しそうに俺に見せる。沢山のあめの文字がある。
とりあえず、文字を覚えさせている。
俺はあめの文字を見て、ふと思う。漢字も覚えさせた方がいいな。魔法に必要な飴と、彼女と出会ったときに降っていた雨。二種類ある。
彼女と過ごす時間はとても穏やかだ。無駄に出費がかさむが、それ以上に充実したものを得ていた。
授業の終わりを告げるチャイムが学校中に響く。
ぞろぞろと校舎から出てくる生徒たちを俺たちは眺めた。
「ずっと不思議だったんだけど、あの人たちはこの建物で何をしてるの?」
随分と嫌な質問をする。
「ここは学校といって――学校ってわかるか?」
彼女は頷き「だったら、勉強だ」と返した。そのあと、心底不思議そうな様子で首を傾げる。
「じゃあ、モトキも生徒だよね。でも、ずっとここにいる……」
俺の顔が強張る。
「――サボってるんだよ」
何とか言葉を絞り出した。
「あんなとこに居ても、意味がないから」
俺は澄ました表情を作って答える。内心ではかなり自分のことを情けなく感じていた。
「だったら、私たちは同じだね」
だけど、彼女は明るく声を弾ませる。
「同じ?」
「うん。私もそう思って、ここに来たから」
えへへっと笑っている。俺はこれ以上、その話に踏み込まなかった。彼女の話をこれ以上聞くと、俺も何か話さなければならない気がした。
帰路に就こうとしている生徒たちを見つめる。いつから俺はあの群衆からあぶれてしまったのだろうか。
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