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彼女の故郷には図書室がなかったようだ。学校があるならあるものだと思い込んでいた。
「えっと、本がいっぱいあるとこで」
「じゃあ、書庫だ」
すぐに彼女は図書室が何なのか理解したようだ。微笑んで「うん、行きたい」と言葉を続けた。
俺にとって、学校は屋上に行くための場所だ。最初からそうだった訳じゃないけれど、今はそれでいい。
図書室へ行くのは何ヵ月ぶりだろう。
隣の魔法使いを見る。周りを不思議そうに見ている。
「中ってこんな風になってるんだね」
彼女の言葉が少し意外だった。
「入ったことなかったのか?」
俺たちはてっきり彼女が夜中に校舎を探索しているものだと思っていた。
「うん。町の方が興味あったから」
「――大丈夫だったのか?」
「えっ? うん、大丈夫だったよ」
そんな風に他愛のない話をしながら歩いていると、すぐに図書室に着く。
まず、俺が先に中に入った。どういう訳か司書教諭は居ない。
何故居ないのか気になるが、とりあえず魔法使いを中に入れてようと思った。廊下より図書室の方が沢山、死角がある。
「誰も居ない。早く来いよ」
俺は図書室の入り口の引き戸を少し開けて腕を引っ張る。
「守永……?」
すると、魔法使いとは違う人間が出てきた。
彼は同じ制服を着た同級生だ。出席番号が近かった。
「モリナガ?」
魔法使いは後から図書室に入ってきて、笑いながら「それが君の名前?」と守永に話し掛けている。
守永はただただこの状況に困惑していた。それは俺も同じで、今は授業中なのに何故守永がここに居るのかわからない。
「ひ、久しぶり。学校には来てたんだ。――この子は?」
「私は」
守永に聞かれて彼女は答えようとする。思わず、俺は彼女の腕を掴んだ。
「戻るぞ」
そのまま強く引っ張って、図書室から出る。
「えっ、でも、本……」
「また今度連れてくるから」
その言葉に納得したのか、彼女は何も言わなくなった。負い目があるのか、守永は俺を呼び止めようともしなかった。
「モリナガと喧嘩してるの?」
屋上に戻ると、彼女は開口一番に聞いてきた。
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