兄の話

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 中学入学を目の前に控えた頃、いつも仕事で忙しい母の職場にこっそり連れて行ってもらったことがある。そこは国立の研究所で、ここで母は人類の未来のためにある研究を行っているのだと言っていた。夜遅く誰もいなくなった研究室に、母は私を招き入れてくれた。 「ほらレイジ、よく見てごらん。これがお母さんが研究していることよ」  母が見せてくれたのは、大きな試験官のような容器に緑色の液体の中に浮かぶ綺麗な少年だった。 「この子はアラヤ。今レイジが生きている世界を作ってくれた神様なの」 「神様?」 「レイジはまだ分からないかもしれないけれど、この世界はね、アラヤがずっと昔に作ってくれた世界で、私たちはアラヤのおかげで生きてこられたのよ」  私は神様だという少年に目を奪われた。 「でもアラヤはね、この世界のために頑張ってくれていたのだけれど、疲れてしまって体が無くなってしまったの。だからお母さんたちがアラヤを甦らそうとしているの」  私は容器に手を触れた。容器の向こう側で、神様という命が作られているという夢のような話が現実に起きている。久しぶりに、心が高揚するのを感じていた。
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