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01_襲撃
南国育ちだが、寒さには耐性のあるほうだと思う。撥水布の上で毛布にくるまれば、雪の上でも朝まで眠ることくらいはできる。
空腹にも強いほうだ。行動中は一日一食でも苦にならないし、二日くらいは食べなくても歩く自信はある。
ちょっとやそっとの疲れや眠気で音を上げる俺じゃない。身体の動かし方は知っているし、うまく使えば二、三日は寝ずに動ける。
まして、はぐれた獣の一匹や二匹、俺にとっては脅威どころかありがたい獲物だ。
いや、自慢したいわけじゃない。
問題は単体ではなく、複合的に起こる、というやつだ。
迷い込んだ真っ白な針葉樹の森ですっかり食料を使い果たし、空腹を抱えたまま五、六日、いやそろそろ一週間か。足跡すらつかない粉雪の上を、沸かした雪だけを口にして歩き続ければ当然、体力は目に見えて低下する。冷たい満月に晒されて身体を縮めて震えているところに、気がつけばなんらかの獣のなんらかの尖った部位が左の肩口にざっくり突き刺さっていたというわけだ。
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