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ですが当然のように誰ひとりとして通行者はなく、気のせいかと半ば思い直し始めてしまいます。しかしながら彼女は、石橋は先に誰かを渡らせ安全を確認したのちに通るタイプ。
へびのような執念深さも相まって、せっかくここまで来たからには自身を納得させて帰りたいと考え、遊歩道の両サイドを覆う茂みをくまなく確認しながら進みました。
梓沙が感じた胸騒ぎは、きっと女の直感という第六感が働いたのかもしれません。
けれど実際は腹の弱い秋良のこと、帰宅途中に腹が痛くなり茂みに隠れて用を足しているかもと思い、スマートフォンを構えて現場を撮影、その後にデータをもとに秋良の脅し材料にしようと企んだのです。
その邪悪な企みは思いがけない効果を齎し、秋良を襲った犯人を撮影することにつながるのでした。それが後に決定的な証拠のひとつとなります。
ともあれ背中に強烈な飛び蹴りを喰らった犯人が蹲っているあいだに、梓沙は秋良を助けようと行動を起こします。まずは秋良に声をかけました。
「秋良しっかりしな。はやくっ、今のうちに逃げるよ──秋良、秋良?」
けれども何度呼びかけようと秋良は返事をせず、それどころかぴくりとも反応を示しません。泥のように眠った状態の弟に梓沙はえも言われぬ不安に駆られ、どうにかパニックを起こさないよう平静を保つことに努めました。
頬を叩き指でまぶたをこじ開け脇をくすぐってみたりと、思いつくかぎりの寝坊助開眼法を試してみましたが当然ながら秋良は目を覚ますことはなく、万策尽きた梓沙は途方に暮れるのでした。
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